過去の音源をリマスタリングするにあたって、最近のダンスミュージックにおける音圧戦争はどうなったのか、そして今はどれ位の音圧にしているのかということが気になって調べてみました。
音圧とは何か?
そもそも音圧とは何か?を簡単に言うと、聴感上の音の大きさを指します。例えば全く同じ曲の音声データが2つあったとして、片方の音圧を上げた場合に、それぞれ同じボリュームで再生すると、音圧を上げた方の曲は音を大きく感じます。
通常、音を録音する際、電気信号に変換された音が 0dB を超えないように録音します。この録音された大きい音のピークは 0dB を超えないように揃えますが、録音された音の中にはアタック音は大きいが持続音は小さいという場合があります。音圧をあげるということは、この小さい音が大きく聴こえるようにしてあげる作業のことをいいます。
昔は大半の方が EQ やコンプレッサーなどを駆使して作業していました。例えるなら、お弁当箱へご飯やおかずを丁寧に詰める作業に似ていると思います。一方、近年ではそれが簡単に行えるマキシマイザーというプラグインの台頭で、簡単に音圧が稼げるようになりました。それはまるで押し寿司をつくる型に、具材と酢飯をギッチリと詰め込む作業に似ています。
主要なストリーミングサービスならマスタリングは -14 LUFS でOK
続・音圧戦争について|Wired7i @Wired7i|note(ノート) https://t.co/tAaPJnlK2a
— Wired7i💎ワイヤード🌽【Techno Composer】 (@Wired7i) September 4, 2018
広大なネットの海へダイブして調べていると、上記の note を見つけました。前後編と2部構成になっていますが必読です。どちらも分かりやすく理解しやすいです。上記の記事を読んで、主要なストリーミングサービスを主体に考えるなら、マスタリングは -14 LUFS ( Loudness Unit, referenced to Full Scale ) を基準にすれば良いことが分かりました。しかし、私のように多様な音楽サービスへ楽曲を配信するアグリゲーションサービスを使っている場合、全てがラウドネスノーマライゼーションに対応しているわけではないので、なかなか難しい問題かもしれないと思いました(マスターとなる1ファイルが各サービスに登録されるため)。
例えば、音源を購入してダウンロードするタイプでラウドネスノーマライゼーションを取り入れていないサービスだった場合、購入者の DJ がクラブなどで使う際に、他の音源よりも音圧が低くフロア映えしないかもしれません(Native Instruments の Traktor とかには音圧を揃えてくれる機能はあったりすのかな?)。
他のミュージシャンはどうしているのか?
ここでちょっと趣向を変えて、他のミュージシャンはどうしているのか調べてみました。
最近 4 週連続でリリースをしていた石野卓球氏の楽曲で、私がお気に入りのの Turkish Smile は -何 LUFS にしているのか計測して調べてみました。実はこの曲を選んだお気に入り以外の理由としては、Sony Music( Spotify の株主)からの配信なので、私のようなアグリゲーションサービスを使わずにダイレクトに公開するアカウントを持っているのではないかと推測したからです。
上記が実際に計測した画面のスクリーンショットです。計測値は、大体 -11 LUFS くらいと言うことが分かりました。てっきり最適化されて -14 LUFS にしていると思っていたので、意外な結果に驚きました。これで一つ考えの指針が確認できたと思います。
結局 -何 LUFS にすれば良いのか
私のように配信アグリゲーションサービスを利用する場合は、以下の選択肢が考えられると思います。
- -11 LUFS 程度にして賢者にならう
- note の筆者と同じ約 -10 LUFS ± 2 LUFS 程度にして様子を見る
- -14 LUFS にしてラウドネスノーマライゼーションが普及するのをじっと待つ
- 音圧 is Justice! -9 LUFS で突っ込む
実際 1. と 2. はほとんど同じと捉えて良いかと思います。また、3. が一番安全だとおもいますが、ラウドノーマライゼーションがまだ過渡期なので、今後どうなるかわかりません。この基準で合わせて調整したとしても、またいつ基準が変わるとも言えないと思いました。かといって音圧を無理にかせいで詰め込み過ぎるのも個人的には好みではないので、しばらくは -11 LUFS 程度にするのが良いという結論に達しました。
昨今のストリーミングサービスの台頭でラウドネスノーマライゼーションが標準化し、こうした音圧戦争に終止符が打たれダイナミクスが蘇ることを個人的には願っています。
追記 2024.05.08
しばらく -11LUFS でやってみて思ったことがあるので追記します。
ストリーミング配信では上記音圧で問題ないと思うのですが、やっぱりクラブなどの音響設備がある場所で鳴らす場合、他のダウンロード音源と比べて音圧が少ないため、聴感上同じくらいに聞こえる様にゲインをあげるとミキサーのピークに振れてしまい揃えることが難しい場合がありました。
このため、可能ならば聞く人・購入する人が意図する状態にしてあげたり、個別に案内を出したりする方が良いのかなと思うようになりました。
例えば、私の場合は配信アグリゲーションサービスに含まれない Bandcamp だけ音圧を上げたものを公開する方法で対応しています。
おまけ
今回の調査及び普段マスタリングする際に使用するツールとして使っているのは iZotope 社の製品です。主に Neutron と Ozone を使っています。ボーカルは基本ない曲なので、Nectar は使っていません。RX はマイクで録った音がきになる場合に使うことがある程度です。
比較対象になる音源がないので、聴くに値しないかもしれませんが、早速以下に -11 LUFS でリマスタリングした音源をアップしてみました。
この曲は Traks Boys という XTAL と K404 によるデュオユニットが 2007年 に発表したアルバム Technicolor に含まれる Ocean Deep という曲のリミックスです。あいにくリリースされることはなかったのですが、彼らから直々に許可をもらって、パラにした各トラックをいただきました。
夏に聴くのにちょうど良い曲になっているので、もしよかったら聴いてください。ダウンロードもできます。