MSXで作った初期作品をW2X名義でCODONAの9番目の作品としてリリースしました。げん担ぎで大安を狙ったところ、奇しくもそのリリース日はファミコンの発売日(1983年7月15日発売)と同日でした。
本作は、これまでのCODONAのリリースの毛色とは異なるチップチューンと言われるジャンルの作品になります。なぜこの作品をリリースしようとしたのかというと、それは自分の音楽のルーツがゲーム音楽にあるためです。今後もCODONAではこういった作品を取り扱っていきたいと考えています。
ルーツの探求から生まれた音楽
親の目を盗んで大量のゲームを浴びるようにプレーをした幼少期、当時は全く音楽には興味がありませんでした。歳を重ねるとともに次第に音楽へと興味が移り、自ら作るまでに至ったわけですが、ふとなぜ自分はこういった曲を作るのかと自問した時に、たどり着いた答えは無自覚にプレーしていたゲーム機から奏でられる電子音楽だったわけです。
自分のルーツを探求し始めた2000年初頭、ゲームボーイで音楽制作できるソフト nanoloop、LSDj (Little Sound Dj)やファミコンで演奏できるデータを作成できるMCKなど、国産の8bit機の制作環境が整ってきた頃でした。これらの登場に刺激を受けて、自分でもあれこれと作ってみることを繰り返していました。
インターネットの普及も相まって、世界ではそんなロービット機で音楽を作る人が沢山いて、チップチューンなど国内外の情報を日本語で紹介しているVORCというサイトなどをみては、毎日のように新しい音楽に出会っていました。過去の膨大なアーカイブも含めて、とにかく沢山聴いていたことを覚えています。
そんな中、当時の自分では高価で買うことができなかったパーソナルコンピューターのMSXでも音楽を作る人がいることを知りました。色々調べてみると、FM音源が使えたり、MIDIが使えたりとファミコンよりもできることが多く、割と手頃な価格で手に入るということがわかり、実際に中古機を入手して制作環境を整え始めました。
MSXで自分の音を出すまでの遠い道のり
私が手に入れたのは最上位機種のMSX turboRよりひとつ下位のモデルで、1988年発売のPanasonic FS-A1WXという機種。この機種を手に入れてから最初に取り掛かったのはフロッピーディスクドライブ(以下、FDD)の換装でした。ディスクを回す方法がベルト式のものはことごとく経年劣化でディスクが回らなくなっています。例に漏れず手に入れた中古機もこの状態。今後手がかからないようにモーターでディスクを直接回すタイプのFDDへ換装しました。
FS-A1WXにはFM音源が標準で搭載されていたので、次に取り掛かったのはコナミのSCC音源を扱えるようにすることでした。コナミはファミコンでもそうでしたが、ゲームカートリッジに独自のチップを搭載して、ゲーム中の音楽の表現の幅を広げていました。SCC音源は波形メモリが扱える(PPG Waveのウェーブテーブルシンセみたいなもの)ため、その音色はPSG音源やFM音源とはまた違った表現ができるのが特徴です。
SCC音源を気軽に扱えるようにするために、ゲームソフトのスナッチャー(フロッピーディスク3枚組+SCCカートリッジ)を購入すれば簡単だったのですが、すでに中古ではプレミアがついていて手が出ず。結局、中古で一番安かった激突ペナントレースを潰してEPROMとゴールドキャパシタ(電気二重層コンデンサ)を積んだスイッチ付きの似非SCCディスクというものに改造しました。
制作に使った音楽ソフトはMSXマガジンに付属していたMuSICAです。このソフトはPSG音源やFM音源が扱えるのはもちろんのこと、SCC音源も扱えます。さらにはウェーブテーブルのエディターが付いていて音色を作るのにとても便利でした。曲はMusic Macro Language(以下、MML)で書くのですが、ソフトにまぁまぁバグがあって、作っている途中でバグってくじけそうになることもありましたが、初心者には割ととっつきやすかったように思います。
それぞれの曲について
今回リリースした1曲目のGirls in my dreamは2003年にできた曲です。ベースのサイン波がSCC音源です。曲のイメージは、夏の終わりと同時に恋の終わりも訪れた失恋ソングです。個人的には、その好きになった女の子が海原を眺めていて、海風で髪がなびく後ろ姿(本人が後ろから見ている視点)のピクセルアートのMVを作りたいです(ドッターの方、ご連絡お待ちしてます笑)。
2曲目のSky in the chipはこのMSXで初めて作った曲です。MMLのコメントアウトをみると2002年の10月8日に作り始めたか、完成させたことになっていました。環境が出来上がって初期衝動で作り上げた曲です。この曲はZX Spectrumというイギリスで最初に爆発的人気になったパソコンで作られた曲にとても影響を受けています。3音の矩形波とノイズが出せる音源チップ(AY-3-8912)しか積んでいないにも関わらず、それ以上に発音しているように魅せるテクニックにとても感動したのを覚えています。
各曲は、上記のPanasonic FS-A1WXで実機録音したものをマスタリングしてデジタル配信しています。
フロッピーディスクの販売
フロッピーディスクが生産終了になって手に入れるのが難しくなってきていますが、今回のリリースでは3.5インチフロッピーディスクにMuSICA用のMMLと音色のデータ、それからBGM形式の演奏データが入ったものをbandcampで販売しています。
BGM形式のファイルであれば、ウェブブラウザで動作するMSXplayで演奏させるのが一番手っ取り早いかもしれません。フロッピーディスクは手作り感がありますが、もし良かったら残りわずかですが買ってみて、ストリーミングではない演奏を楽しんでください。また、どのようなMMLを書いているか、バイナリーエディターなどでファイルを開けば、中身を覗くこともできます。ちなみに、デジタル配信は以下から聴けますので、もし良かったら聴いてみてください。